実質賃金が戻らない理由:2026年の「物価は落ち着いたのに苦しい」を分解する

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鈴木 美咲
鈴木 美咲
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物価上昇が鈍っても家計がラクになりにくいのは、名目賃金と「生活実感インフレ」のズレが大きいからです。総務省・日銀の見方を手がかりに、支出の組み替えで効く対策を整理します。

物価が「落ち着いた」ニュースのわりに、財布が軽いのはなぜ?

2026年春、街の空気はちょっと不思議です。ニュースでは「インフレはピークアウト」「物価上昇は鈍化」と言う一方で、スーパーのレジで「え、こんなに?」が続く。ぶっちゃけ、これがいちばんストレスなんですよね。

鍵は“平均の物価”と“あなたの物価”が一致しないこと。総務省の消費者物価指数(CPI)は国全体の平均値ですが、家計は各家庭の支出構造で痛みが変わります。さらに、賃金は上がっても、税・社会保険料や「下がりにくい支出」が残ると、実感は追いつきません。

ここからは、マクロを家計の言葉に翻訳します。結論から言うと、「実質賃金が戻らない」状態は、(1)物価の中身、(2)賃金の届き方、(3)固定費の粘着性、の3点でかなり説明できます。


背景①:総務省CPIの「平均」と家計の“体感インフレ”はズレる

総務省CPIは、いわば“日本の標準家計”の買い物カゴを指数化したものです。けれど、実際の家計は人によってカゴが違う。子育て世帯と単身、持ち家と賃貸、車ありとなしで、痛む項目が変わります。

私の感覚だと、2026年は「食」「住」「子ども関連」が家計の気分を決めています。価格が上がっただけでなく、下がりにくい。しかも頻度が高い。これ、生活者には致命的です。

体感インフレが強く出やすい支出の特徴

  • 毎週・毎月必ず払う(食費、光熱、通信、保育・教育)
  • 代替が難しい(家賃、通院、通勤)
  • 値下げが遅い(サービス、外食、家事代行、習い事)

実例(東京23区の単身会社員の“体感”)

例えば、手取りが月¥270,000の単身会社員(賃貸)で、食費が月¥45,000→¥52,000に増えたとします。差は¥7,000。たった¥7,000ですが、月の自由に使えるお金がもともと¥30,000しかない人なら、可処分の“遊び”が一気に2割以上削られる計算です。

IMPORTANT

CPIが「前年同月比+2%」でも、あなたの“自由に使える枠”が「−20%」になることは普通に起きます。家計の痛みは、平均の物価ではなく“余白の減り方”で決まります。

ここで使えるちょっとしたコツ:自分専用CPIを作る

総務省の指数を追うより、家計簿(またはクレカ明細)から「上がった3項目」を特定するほうが効きます。家計簿が続かない人は、固定費・変動費を10分で分けるだけでも十分です。私はこのやり方、かなり現実的だと思っています。
関連: 家計簿が続かない人のための「1枚家計シート」作り方:固定費と変動費を10分で見える化


背景②:名目賃金が上がっても「手取り」は別物(税・社会保険料の壁)

賃上げの話が出ても、「で、手取りは?」となるのが日本の家計です。ここが落とし穴。

実質賃金はざっくり言うと、名目賃金 ÷ 物価。ここに“手取りの感覚”を入れるなら、実際はさらに税・社会保険料が引かれます。特に厚生年金・健康保険は定率なので、給与が上がると負担も増えます。

「昇給したのに苦しい」の典型パターン

パターン起きていること家計の実感
昇給はした名目賃金は増えるうれしいはず
でも手取りが増えない社保・税、住民税の増加、扶養の壁の影響「あれ、こんなもの?」
支出は下がらない家賃・教育・通信・保険などが粘着生活は変わらない

実例:年収¥500万→¥520万で“月の差”が薄い

年収が¥20万上がっても、手取りの増え方は満額ではありません。社会保険料・所得税・翌年の住民税まで含めると、「月あたりの増加が¥5,000〜¥8,000程度に見える」ケースが出ます(家族構成や控除で変動)。
一方で、食費や外食が月¥8,000増えたら相殺。これ、起きがちです。

WARNING

「昇給=家計がラクになる」と決め打ちすると危険です。昇給分は“先に消える(税・社保・固定費)”ものとして、残りをどう守るかが大事。

家計への影響:壁と制度を、敵じゃなく設計図にする

制度は複雑ですが、対策は意外とシンプルです。

  • 定額減税の反動や住民税のタイミングを確認して、月のキャッシュフローを乱さない
  • 103万円・130万円の壁がある世帯は、働き方と社保加入の損得を「年額」で試算する
  • iDeCoや新NISAは“節税・非課税”というより、家計のブレを吸収する器として使う(使いすぎ防止にもなる)

関連: 定額減税の次にやる家計見直し:手取りを増やす5つの点検ポイント


背景③:「下がりにくいインフレ」が家計を圧迫する(サービス・家賃・教育)

物価の中でも、いったん上がると戻りにくいのがサービス価格です。人件費が乗るからです。ここは日銀がよく見るところでもあります。企業が賃上げすると、サービス価格がじわっと上がりやすい。すると家計は“毎月の固定っぽい支出”で効いてくる。

家賃も同じ。更新時にじわり、引っ越しでドン。教育費・習い事も、やめにくい支出の代表格です。

「固定費化した変動費」を疑う

正直なところ、家計が苦しい人ほど、変動費が固定費みたいになっていることが多いです。

  • サブスク(動画・音楽・学習系)
  • スマホのオプション
  • 週末の外食が“習慣”
  • コンビニが“生活インフラ”

実例:サブスクを1本切るより、週1の外食の形を変える

月¥1,000のサブスクを切っても、インパクトは限定的。
一方で、週1の外食を「ランチに寄せる」「ポイント還元が高い日にまとめる」「テイクアウトで単価を落とす」など、設計で月¥4,000〜¥8,000が動くことがあります。

ここ、私は“我慢”より“置き換え”派です。続かないですから。


これが家計にとって意味すること:2026年は「支出の順番」を入れ替える年

物価が落ち着くのを待つより、家計側の並べ替えのほうが早い。2026年の特徴は、「金利も物価も為替も、家計にじわじわ効く」ことです。派手なショックではなく、気づいたら余白が減っているタイプ。

まずやる順番(私のおすすめ)

  1. 固定費の棚卸し(通信、保険、サブスク、住居費の更新条件)
  2. 特別費の平準化(自動車税、帰省、家電、冠婚葬祭)
  3. “体感インフレ3項目”の対策(食・光熱・教育など、頻度が高いもの)
  4. 貯蓄は先取り、投資はルール化(新NISAは“気分”で触らない)

関連: 家計の「特別費」を月3,000円から平準化:ボーナス頼みをやめる積立設計

比較表:値上げ局面の「守りどころ」

守るもの具体策効きやすい家庭
毎月の余白週次の食費ルール、外食の単価設計、ポイント還元の集約単身・共働き
固定費の粘着通信プラン見直し、保険の目的整理、家賃の更新条件確認全世帯
変動のショック特別費の積立、住民税・車検月の前倒し子育て・車あり
金利のじわ上げ住宅ローンは金利より返済計画、繰上げの優先順位住宅ローン世帯

住宅ローンの金利感については、別記事で「変動→固定」より前にやることを整理しています。金利が動く局面ほど、家計は“意思決定の順番”が大事です。
関連: 住宅ローン金利のじわ上げ:2026年の家計は「変動→固定」より返済計画が先


最後に:ニュースの「平均」から、自分の「余白」を取り戻す

インフレが鈍化しても、家計がすぐラクになるとは限りません。CPIは平均、賃金は手取りではない、そして下がりにくい支出が残る。だから「物価は落ち着いたのに苦しい」が起きます。

でも逆に言えば、家計は“平均の景気”に合わせなくていい。あなたの支出の並びを変えれば、体感は変わります。私は、景気予測より家計の設計のほうが、よほど確実だと思っています。

「何からやる?」と聞かれたら、まずは“体感インフレ3項目”を特定して、次に特別費を平準化。ここまでやると、同じ物価でも家計の息がしやすくなります。

実質賃金が戻らない理由:2026年の「物価は落ち着いたのに苦しい」を分解する
鈴木 美咲

鈴木 美咲

エコノミスト

鈴木美咲は、シンクタンクでの調査経験を持つエコノミストです。インフレや金利、為替といったマクロ経済の動きを、家計への影響という視点からわかりやすく読み解くことを得意としています。難しい経済ニュースを生活者の言葉に翻訳し、日々のお金の判断に役立つ解説を心がけています。

資格・経歴: ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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